HiHiの雑多な本棚

本の感想と、お金の話。

はしゃ『さめない街の喫茶店』(イースト・プレス)

ある日突然、眠りから目覚めることができなくなった主人公のスズメは、「ルテティア」という“さめない街”に迷い込み、喫茶店「キャトル」で働くことになります。
不思議な街ルテティアでの生活と、喫茶店キャトルを中心に謎に近づくストーリーになります。

……と紹介すると本格ファンタジーに思えますが、実態は「数人の常連しかお客がいない素敵な喫茶店で、マスターのハクロさんがコーヒーを淹れて、スズメちゃんがお菓子を作って客に振る舞う」という日常を繰り返すという内容です(^^
つまる所がファンタジー世界を舞台とした日常系で、確かに街の構造が不思議だったり、巨大な猫や空を飛ぶ鯨や双子の魔女が出てきたりはしますが、この作品の魅力はそこではなく、心地よい湯気の中にいるかように繰り返される素敵な日常……だと思います。ちにみに、スズメちゃんは普通に可愛いですw
主人公のスズメはお菓子作りは得意だけど料理はちょっと苦手という設定。各話で必ず一品はお菓子か料理を作ります。これが“物語の展開として作っているだけ”でなく、現実に調理可能なメニューであり、各話の最後には材料と簡単なレシピが紹介されているという凝りよう。
出来上がりの描写はとても美味しそうで、お客さんも美味しいと言って食べるので、とても幸せな気持ちになれます。
茶店キャトルはどう見ても素敵なカフェですし、さめない街ルテティアはヨーロッパ風の素敵な街なので、カフェ巡りや街歩きが好きな人には眺めているだけで満足できる作品だと思います。粗いタッチですが細かく描き込まれた背景のおかげで、本当にこの街、この店で生活している気分を味わえるでしょう。

ストーリーは、「本当にこの街にいていいのだろうか?」というスズメの不安や疑問を軸に進みます。日常の話の中に時折“話を進めるための話”が挿入され、冷たく暗いものを感じさせるという構成は上手いと思います。ただ、設定がゆるふわなので“驚きの展開”や“鮮やかな伏線回収”とかは無縁です。ルテティアの正体も途中で先読みできてしまいましたし、ラストも「まぁこんなものか」という感じでした。

ラフなタッチの背景や、簡略化されたキャラの表情といった賛否両論ありそうな点もありますが、「ファンタジーの日常」というのが嫌いでなければ、手に取る価値はあると思います。
ただ、この作品には大きな欠点があります。それは……強烈な「飯テロマンガ」であるということw
ダイエット中の方や、深夜に読書する方はご注意くださいww