HiHiの雑多な本棚

本の感想と、お金の話。

川喜田 敬『そうだ、途上国に住もう!』(個人出版)

大手企業で3年間人事で働いた後、途上国であるネパールに移住した著者の体験記。第1章では「途上国に住もう」と言っている理由を、第2章ではその手段として青年海外協力隊について、第3章では実際に青年海外協力隊で2年間過ごした著者の体験を、第4章、第5章ではまとめという構成です。
日本に住み続けることを否定する内容ではなく、「途上国に住む」という選択肢を読者の人生に加えることが目的です。海外移住を押し付けるようなことが無いのは冒頭から好印象。

さて、「途上国に住もう」という提案を魅力的に感じる人は少ないと思います。
理由は本書に書いてあるように「 汚い・怖い・危険」というイメージが付きまとうからです。
私も数回海外に旅行していますが、上記の理由から先進国だったり途上国でも危険が少ない都市部だけです。
まずは途上国の魅力を伝えないと「そうだ、途上国に住もう!」という提案が成り立ちませんので、著者は「可能性・経済的・家族」の3つの点を挙げています。3つ目が少し変わっていると思いましたが、おそらくこの「家族」というのが著者が最も提示したかったメリットでしょう。というか、1つ目と2つ目は誰でも思いつきますので(発展の可能性があるとか物価が安いとか)、3つ目を提示しないと本にする価値がありません。

物の時代から心の時代へ――先進国である日本が急速に経済成長と発展していく中で置き去りにしてしまった「何か」が、途上国にはある。これからの時代はその「何か」が重要になるので、途上国が最先端となる――家族という言葉に血縁者の集まりという以上の意味を込めて、途上国に住むメリットとして挙げていると感じました。

第2章と第3章では途上国に住むための手段として、青年海外協力隊を提案しています。確かに、途上国に限らず海外にパッと行ってパッと住めるという人は少ないでしょう。この本を手にとっておいて何ですが、私は途上国への移住に興味があるわけではありませんので、ふーん……という感じで読みました。ただ、思っていたよりも青年海外協力隊になるというハードルが低いということは分かりました。

4章は、第2章と第3章を総括している感じですが、この章が一番興味深かったです。途上国に住むことで得られたもの、失ったものという形で、分かりやすくまとめてあります。途上国から見た日本というのを、なるべく批判的にならないように書いていますが、日本人の働き方に対する疑問という部分は特に共感しました。

5章は本書の総括と、最後に青年海外協力隊をオススメして完結という感じです。

私は著者である川喜田さんのメルマガに登録して購読しています。本書とメルマガをずっと読んできて感じるのは、日本人はお金を稼ぐことに異様に執着するのですが、稼いだお金を何に使うのか――どう使ったら自分の人生が、ひいては世の中が良くなるのか――ということに対して非常にぞんざいだということです。
受験勉強、就職活動を頑張って良い会社に入り、早朝から深夜まで働いてお金を稼ぐ。それだけ人生のリソースを使って稼いだお金を何に使うのかと問えば「家買ってクルマ買って子どもの養育費に使って、あとは趣味にちょこっと」と答える人がほとんどでしょう。結果、やりたいことが分からなくなってモヤモヤした気持ちを抱えたままで、人生が色褪せたものになってしまっているように感じます。

人生を素晴らしいものにするために色々と本を読み、他の人の生き方を見聞きして考えてはいますが未だに私なりの答えは出ていません。しかし、本書を通して「途上国に住む」という選択肢を追加することで「あぁ、こんな生き方もあるんだ」と考えることができるようになったと思います。