HiHiの雑多な本棚

本の感想と、お金の話。

川村元気『億男』(マガジンハウス)

しがない図書館司書の一男は、失踪した弟の3000万円の借金を肩代わりしていました。ふとしたきっかけで手に入れた宝くじが当選。3億円を手に入れます。最初は浮かれていたものの、ネットの情報を閲覧するうちに不安に襲われ、大富豪の友人を15年ぶりに訪ねるのでした。

多額のお金が動く展開がセンセーショナルなので物語としては面白いのですが、自己啓発としてはイマイチかなと。登場人物たちは皆お金に振り回される人生を送っていて、じゃあどうするんだ?という答えはほとんど教えてくれません(答えは人それぞれという結論)。
この本を読んだほとんどの人の感想は「大金を手にして幸せになれるとは限らないということは分かったけど、それでもお金が欲しい(笑)」になるのではないかと思います。

この作品の一番の評価できる部分は、人気があり映画にもなった作品の内容がこの程度なら、現実のほとんど人たちがお金に振り回される人生を送っていると再認識できることぐらいですかね。
他の本と併読して考えるならともかく、この本だけでは相当物足りないのではないでしょうか。

このブログのテーマが「本の感想と、お金の話」なので、いくつかの本を紹介しつつ、お金とどう付き合うかという命題に対する私なりの具体的な答えを出していくつもりです。

宮澤伊織『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』(ハヤカワ文庫JA)

表題の他、三篇のお話。シュールだった1巻と比べて、空魚と鳥子の二人が裏世界探索に慣れたせいか、どことなくコミカルな展開の話が多いような気がします。「猫の忍者に襲われる」はタイトルから笑えますねw
「箱の中の小鳥」はシリアスにしつつ設定が一度に紹介され、大きく展開します。
やっぱりあのお姉さんが話のメインといったところなのでしょうか。

個人的にはコミカル路線で長く続いてほしいと思っている中で、現時点でのインディーズ出版分はかなりコミカル寄りっぽいので安心ですね。カラテカちゃんの出番もあるっぽいですし。
冒険と日常系を織り交ぜた不思議な雰囲気の作品で、キャラも含めお気に入りです。

中谷美紀『インド旅行記4 写真編』(幻冬舎文庫)

映画の撮影で疲れた女優さんがインドを旅行する旅行記。プロの旅行家や冒険家ではないので、新鮮さ溢れていますがあちこち素人感覚です。
私自身も一応旅行記を書いている人間で、他の人が書いた旅行記……特に素人さんはどんな感じなんだろう?と気になって図書館で手に取りました。箇条書きで簡単に感想を書いておきます。
……ちなみに、いきなり4の写真編にしたのは、1~3は文章だけだったので読む気がしなかったからです。やっぱり写真が無いと旅行記はつらいです。

・素人が書いたとはいえ、インドという混沌の国の長期旅行の旅行記はなかなかに面白かったです。
・写真の質は良いとはいえません。所々ピンボケになっている写真もあります。
・編集が入っているせいか文章はそれなり。センスを感じさせる個所もいくつかありました。
・インドやネパール行きたいけど怖い……。そして不衛生なので下痢しそうですw
・写真編はダイジェストなので、散文的なのは致し方ないですね。

総じて「見せ方が上手いな」という印象でした。私の旅行記は写真にコメント付けただけなので、文章や構成は雑ですね。ただ、写真については同レベルといったところかと思います。

米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社)

2001年に実際に起きた、ネパール王宮での殺人事件を取り込んで書かれたミステリ。この事件、未だに犯人が分かっていないらしく、真相や犯人をフィクションで創作する内容だと勝手に思い込んでいたのですが全然違っていました(><

日本人にとっては、治安の悪い途上国は何が起こるか分からない場所です。その緊迫感を上手く活かした展開に引き込まれてしまいました。特に王宮での殺人事件が起こってからがすごい。
加えて、アジア最貧国ネパールの雰囲気が精緻に描かれていて「生活感というか、泥臭い描写が微に入り細を穿っていて、なかなか読ませる」内容です。頑張って取材したんだろうなぁと思いました。

センセーショナルな事件を題材にしていますが、ストーリーは非常に米澤さんらしいもので、細かいことに気づいていかないと真相を推理するのは困難でしょう。
最後のオチも納得できるものでしたので、米澤さんの記念碑的傑作と言っても差し支えないと思います。

川喜田 敬『そうだ、途上国に住もう!』(個人出版)

大手企業で3年間人事で働いた後、途上国であるネパールに移住した著者の体験記。第1章では「途上国に住もう」と言っている理由を、第2章ではその手段として青年海外協力隊について、第3章では実際に青年海外協力隊で2年間過ごした著者の体験を、第4章、第5章ではまとめという構成です。
日本に住み続けることを否定する内容ではなく、「途上国に住む」という選択肢を読者の人生に加えることが目的です。海外移住を押し付けるようなことが無いのは冒頭から好印象。

さて、「途上国に住もう」という提案を魅力的に感じる人は少ないと思います。
理由は本書に書いてあるように「 汚い・怖い・危険」というイメージが付きまとうからです。
私も数回海外に旅行していますが、上記の理由から先進国だったり途上国でも危険が少ない都市部だけです。
まずは途上国の魅力を伝えないと「そうだ、途上国に住もう!」という提案が成り立ちませんので、著者は「可能性・経済的・家族」の3つの点を挙げています。3つ目が少し変わっていると思いましたが、おそらくこの「家族」というのが著者が最も提示したかったメリットでしょう。というか、1つ目と2つ目は誰でも思いつきますので(発展の可能性があるとか物価が安いとか)、3つ目を提示しないと本にする価値がありません。

物の時代から心の時代へ――先進国である日本が急速に経済成長と発展していく中で置き去りにしてしまった「何か」が、途上国にはある。これからの時代はその「何か」が重要になるので、途上国が最先端となる――家族という言葉に血縁者の集まりという以上の意味を込めて、途上国に住むメリットとして挙げていると感じました。

第2章と第3章では途上国に住むための手段として、青年海外協力隊を提案しています。確かに、途上国に限らず海外にパッと行ってパッと住めるという人は少ないでしょう。この本を手にとっておいて何ですが、私は途上国への移住に興味があるわけではありませんので、ふーん……という感じで読みました。ただ、思っていたよりも青年海外協力隊になるというハードルが低いということは分かりました。

4章は、第2章と第3章を総括している感じですが、この章が一番興味深かったです。途上国に住むことで得られたもの、失ったものという形で、分かりやすくまとめてあります。途上国から見た日本というのを、なるべく批判的にならないように書いていますが、日本人の働き方に対する疑問という部分は特に共感しました。

5章は本書の総括と、最後に青年海外協力隊をオススメして完結という感じです。

私は著者である川喜田さんのメルマガに登録して購読しています。本書とメルマガをずっと読んできて感じるのは、日本人はお金を稼ぐことに異様に執着するのですが、稼いだお金を何に使うのか――どう使ったら自分の人生が、ひいては世の中が良くなるのか――ということに対して非常にぞんざいだということです。
受験勉強、就職活動を頑張って良い会社に入り、早朝から深夜まで働いてお金を稼ぐ。それだけ人生のリソースを使って稼いだお金を何に使うのかと問えば「家買ってクルマ買って子どもの養育費に使って、あとは趣味にちょこっと」と答える人がほとんどでしょう。結果、やりたいことが分からなくなってモヤモヤした気持ちを抱えたままで、人生が色褪せたものになってしまっているように感じます。

人生を素晴らしいものにするために色々と本を読み、他の人の生き方を見聞きして考えてはいますが未だに私なりの答えは出ていません。しかし、本書を通して「途上国に住む」という選択肢を追加することで「あぁ、こんな生き方もあるんだ」と考えることができるようになったと思います。

円居 挽『その絆は対角線』(創元推理文庫)

『日曜は憧れの国』の続巻です。無料体験チケットを全て使い切った4人ですが、カルチャーセンターには引き続き通うことにします。それぞれが興味のある講座を受講するのでタイミングも教室もバラバラにはなるものの、完全に分かれてしまうことにはならない……はずだったのですが、メンバーの一人、桃からのコンタクトが無くなって……という感じで始まります。

タイトルに「対角線」と入っていることから分かる通り、波長が合わない千鶴と真紀がペアになることが多いです。もちろん桃と公子の出番も十分に確保されていますが、誰かとペアというわけではなく単独での話だと思いました。ぶつかったり喧嘩したりしながらも成長し変わっていくのを見るのは楽しいですね。

日常系ミステリで、それぞれの短編で4人が謎を解き明かしていくという流れは変わらずです。「エリカ」というモブキャラが通しで登場。最後のお話で彼女の謎が解かれることになります。エリカはキャラ付けが若干無理やりに思えていて作者らしくなく少々不快だったのですが、こういうオチなら納得ですw

4人の微妙な関係が最終的にどうなるのか楽しみだったのですが、完結とも続くとも受け取れる感じで終わっていました。続きが出るなら読みたいですね。

最後に補足というか蛇足w
作中で小説講座の講師が「あなたの創作活動には限りある人生を費やす価値がありますか?」という問いを発するのですが、創作者の端くれとしてここで答えを書いておきたいなと。
「創作することで作者の人生が充実するなら、人生を費やす価値はある。作品の出来栄えは関係ない」というのが私の意見です。まぁ公子のようにプロを目指しているのであれば、捉え方は変わってくるのでしょうが……。

円居 挽『日曜は憧れの国』(創元推理文庫)

カルチャーセンターの料理教室で同じ班になった4人の中学二年生の女の子、千鶴,桃,真紀,公子。性格も外見もバラバラな彼女たちは教室で起きた盗難事件を推理したことがきっかけで仲良くなります。無料体験チケットの残りを同じ講座で使うことにした4人は、カルチャーセンターで起こる様々な出来事を推理しながら仲を深めていくのでした。

日常系ミステリですね。あからさまな「探偵役」がいないということが特徴的だと思います。4人で意見を出し合いながら推理を組み立てるので、間違ったり的外れな意見が時々出るのが自然な感じがして好みでした。
謎解き要素は弱めで、4人が絆を深めあうのを描くのがメイン。『ひだまりスケッチ』や『きんいろモザイク』のように最初から意気投合して皆仲良し……というわけではありません。お互いの第一印象も決して良いとは言えず、意見のぶつかり合いもあったりと、ギクシャクしています。

5本の短編で構成されていて、それぞれのお話で一人一人にスポットが当たる感じ。「自分自身をどう思っているか」と「他の3人がどう見えているか」が語られます。それらを統合すると、各キャラの内面や取り巻く環境が少しずつ分かってきます(同時にお互い避けていたり、ほとんど話をしていないペアもあったりするのが分かります)。最後の短編は……ネタバレになりそうなのでやめておきますw

日常系ミステリなのは間違いないのですが、多面的な読み方ができる作品だと思いました。意味深なタイトルにも隠された謎があると思っています。
作者があとがきで書いている通り、人生を助けてくれる何かが見つかったりするのかも!?